コラム#128マーケティング

値上げの理由は、ちゃんと説明したんです。|損失回避と、値上げが受け入れられる条件

値上げの理由は、ちゃんと説明したんです。|損失回避と、値上げが受け入れられる条件

どーも!とーるです!

「理由も、ちゃんと書いたんです。丁寧に。
それなのに、何人か離れてしまって」

値上げのあとに、こういう相談を受けることがあります。

文面を見せてもらうと、ちゃんとしてるんですよね。
事前に告知して、理由を先に書いて、既存のお客様の扱いも明記してある。
謝ってもいない。

手順としては、ほぼ満点です。

…というか、僕が前に書いた手順そのままでした。ちょっと照れました。

前に#121で、値上げで揉めるのは金額じゃなくて納得のほうで、伝える順番を整えれば受け入れられやすくなる、という話を書きました。

あの話は、いまもそのまま使えます。

ただ、あれは「どう伝えるか」の話でした。
今回は、その手前の話です。

伝え方では届かない部分が、ひとつあります。

43.0% と 17.1%

2026年8月に、マイボイスコムが10,877人に聞いた調査があります。
「どういう値上げなら受け入れやすいか」という質問です。

結果はこうでした。

  • 上げ幅が小さいこと ── 43.0%
  • 品質が向上すること ── 17.1%
  • 割引・還元があること ── 16.5%

いちばん多いのが「上げ幅が小さいこと」で、2位の2.5倍です。

#121で「理由を先に書きましょう」と言った、その理由の中身。
「提供内容が増えました」「サポートを広げました」というものです。
あれは調査でいう「品質が向上すること」に当たります。

17.1%です。

つまり、順番を整えるのは、2番目に効くことを、ちゃんと届けるための工夫なんですよね。
いちばん効くものは、文面を書く前に決まっていました。

ちなみに背景として、2026年9月の飲食料品の値上げは4,923品目でした。
帝国データバンクによると、前年同月の約3.4倍だそうです。
お客様の側は、この量の値上げを毎月浴びています。

損失回避——足すより、引くほうが効きます

なぜ「上げ幅」が「理由」に勝つのでしょうか。

行動経済学に、損失回避という考え方があります。
カーネマンとトベルスキーが示したもので、人は同じ大きさなら、得することより損することのほうを重く感じる、というものです。

どのくらい重いか。
研究では、だいたい2倍と言われています。

値上げのお知らせを受け取ったとき、お客様の頭の中では、2つのことが同時に起きています。

  • 損失:払う金額が増える
  • 利得:受け取る内容が良くなる

「理由を丁寧に説明する」のは、利得のほうを大きく見せる作戦です。
対して「上げ幅を抑える」のは、損失のほうを小さくする作戦。

損失のほうが2倍くらい重く感じられるなら、同じだけ動かせるとして、効くのは損失側です。

43.0%と17.1%の差も、この形をしています。

同じ金額の値上げでも

具体的にしてみます。

ある月額サービスが、料金を1,000円上げるとします。

パターンA:もとの価格が4,000円だった
パターンB:もとの価格が2,500円だった

上がった額は、どちらも同じ1,000円です。でも受け取られ方は違います。

人は絶対額ではなく、いまの価格からどれだけ動いたかで判断するからです。
行動経済学ではこれを参照点依存と言いますが、要するに「前いくらだったか」が基準になる、ということです。

Aは25%増。Bは40%増。

Bのほうが、はるかに重く感じられます。

そして厄介なのは、この差を、理由の説明では埋めにくいことなんですよね。
「サポートを増やしました」と書いても、40%は40%のままです。

では、どうするか

打ち手は、そんなに多くありません。

① 幅を小さく、回数を分ける

1,000円を一度に上げず、500円ずつ2回に分ける。
手間は増えますが、一回あたりの損失が小さくなります。

ただし、そのたびに告知が発生します。
年に何度も値上げの連絡が来るサービスは、それはそれで疲れさせるかもしれません。
ここはバランスの話になります。

② いまいるお客様の幅だけ、別に設計する

新規の方には改定後の価格、いまいる方には当面その中間、というやり方です。

#121で「既存のお客様をどうするか明記しましょう」と書きました。
あれを一歩進めると、明記するだけでなく、幅そのものを分けて設計するになります。

③ 上げないという選択肢を、ちゃんと検討する

身も蓋もないんですが。

値上げ幅が大きくなる理由の多くは、前に上げるべきときに上げなかったからなんですよね。
据え置いた分が溜まって、あるとき一気に出る。

小さく上げ続けていた人は、大きな告知をしなくて済んでいます。

サブスクの値上げ告知を、もう一度見てみると

#121では、サブスクの値上げ告知が荒れるかどうかの差として、「前に言ったか」「いまの利用者をどうするか書いてあったか」の2つを挙げました。

今回の話を足すなら、もう1つあります。

上げ幅です。

僕が見てきた範囲では、荒れている告知は、上げ幅の大きいものが多い印象です。
逆に小幅なものは、事前の告知があれば、そこまで大きくならないことが多い。

伝え方の上手い下手より先に、そもそもの幅が効いている。
順番としては、こちらが先なのかもしれません。

前に書いた結論に、1行だけ足しておきます

#121では「金額より、順番の話です」と書きました。

今回の話を足すと、こうなります。

幅を決めてから、順番の話をしてください。

順番の話が要らなくなるわけではありません。
同じ幅なら、伝え方で差は出ます。
#121の4つの順番は、いまもそのまま使えます。

ただ、伝え方は幅を超えられません。

40%の値上げを、25%に感じさせる文章は書けないんですよね。
書こうとすると、だいたい盛った表現になります。そして盛った値上げ告知は、いちばん揉めるやつです。

なので、値上げの相談を受けたら、僕はこれから、最初に数字を聞こうと思います。

「前いくらで、いくらにしますか」

ここが決まってから、#121の順番の出番です。

この先は、架空のお店を1つ用意して、実際に上げ幅を決めてみます。
%への直し方、1回で上げる幅の上限、分け方、いまいる人と新しい人の分け方まで、手順どおりに書きました。

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とーる|猫好きの行動経済アナリスト

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