『オフラインで活動します』の正体が、転職活動になる話

最近、SNSの「お客様の声」を見ていて思うんです。
あれって、誰のものなんでしょうね。
「初めて申込みが入りました!」
「売上が〇万円になりました!」
「この講座を受けて、人生が変わりました!」
と、お客さんから届いたメッセージ。
うれしい。
分かります。
で、そのままスクショして投稿する。
いや、あなたの実績じゃないんですよ。
お客さんの実績です。
名前を消した。
アイコンにモザイクをかけた。
だから載せても大丈夫。
ではありません。
文章の内容、投稿した時期、商品名、ほかの投稿などを組み合わせれば、本人や周りの人には分かることもある。
少なくとも、
「このメッセージを実績紹介に使っていいですか?」
と聞けば済む話です。
なのに、聞かない。
なぜか。
断られたら使えなくなるからです。
つまり、
「許可を取り忘れた」
ではなく、
「許可を取ると困るから、取らなかった」
になっている人もいる。
これ、SNSビジネスでは普通に見かけます。
もう一つ、よく見るのが、
「友だち追加で豪華プレゼント!」
という導線です。
テンプレートをプレゼント。
チェックリストをプレゼント。
無料動画をプレゼント。
プレゼントを渡すことも、登録後に関連商品を案内することも、それ自体が全部ダメなわけではありません。
問題は、
無料プレゼントだけが届くように見せて登録させ、直後から販売目的のチャットを送り続けること。
「テンプレートをプレゼントします!」
と聞いて登録したら、3分後には、
「実は、あなたにだけご案内があります」
いや、早いんですよ。
まだテンプレートも開いていない。
こちらはダウンロードしたファイルの保存先すら見つけていないのに、向こうではもう残席が2席になっている。
そして、
「詳しくは個別相談で」
とZoomへ呼ばれ、そこで初めて高額商品の話が始まる。
こうした導線は、全部が直ちに違法になるわけではありません。
ただ、販売目的を隠したまま相手を誘い出し、Zoomや個別相談などで勧誘する方法は、取引の内容によっては特定商取引法上のアポイントメントセールスなどに該当する可能性があります。消費者庁も、販売目的以外のことを告げて呼び出す方法などを規制対象として説明しています。
さらに、プレゼントを渡すために取得した名前、メールアドレス、LINEやSNSのアカウント情報を、説明していない別の営業や第三者への提供に使えば、個人情報保護法側の問題も出てくる。
本人が分かる状態で、お客さんの実績やメッセージを無断掲載する場合も、個人情報だけでなく、プライバシーなどの問題が重なる可能性があります。
つまり、今まで、
「特商法だけ気をつけておけばいい」
と思っていた販売導線に、個人情報保護法も別方向から入ってくる。
特商法で刺さり、
個人情報保護法でも刺さる。
導線だけは一直線なのに、法律は両側から来ます。
そもそも個人情報保護法は、大企業だけが守る法律ではありません。
2017年5月30日以降は、それまであった「5,000人分以下なら対象外」という扱いがなくなりました。
個人情報データベース等を事業で利用していれば、取り扱っている人数にかかわらず、小規模事業者や個人事業主も個人情報取扱事業者に該当します。
そして2026年。
個人情報保護法の改正法が、7月10日に参議院本会議で可決・成立しました(その後、7月17日に公布。令和8年法律第56号)。
今回の改正には、違法な個人情報の取扱いによって財産上の利益を得た場合の課徴金制度や、悪質な事案に対応するための罰則強化などが盛り込まれています。
もちろん、
小さなミスを一回したら、翌朝すぐに課徴金。
という話ではありません。
施行もこれからですし、課徴金は違反行為の内容や悪質性など、一定の要件を満たすものが対象です。
ただ、流れは明らかです。
「ちゃんと扱ってくださいね」
という注意だけでは減らないから、次の手段が用意されている。
それでも、
「自分は小さいから見つからない」
「フォロワーも少ないから大丈夫」
「行政が、わざわざ私なんか見ないでしょう」
と思っている人もいるでしょう。
けど、あなたが直接見つかるとは限らないんです。
例えば、あなたとつながっている事業者が、たまたま注意や確認を受けたとします。
その人が、
「え?〇〇さんもやっています」
「このコミュニティでは普通です」
「私のビジネスの先生から教わりました」
「この人の講座で、この方法を習いました」
と説明したらどうしますか。
もちろん、名前が出た瞬間に、
「はい、あなたも違反です」
とはなりません。
SNSでつながっているだけで、自動的に違反者扱いされるわけでもない。
けど、
「じゃあ、その人はどんな運用をしているんだろう」
と、まじまじ見られる入口にはなり得ます。
個人情報保護委員会には、事業者に対する指導・助言、報告徴収、立入検査、勧告・命令などの権限があります。
刑事ドラマのように、
「少し調査にご協力いただけますか」
と二人組が玄関に来るとは限りません。
その前に、投稿、販売ページ、登録フォーム、プライバシーポリシー、登録後の配信内容などを、無言でまじまじ見られているかもしれない。
特に危ないのは、自分がやっているだけではなく、
「この方法なら大丈夫です」
「この一文を入れればOKです」
「こうすれば規制を避けられます」
と、人に教えている人です。
教わった側が注意されたら、そりゃ言いますよ。
「先生に教えてもらいました」と。
先生を守るために、自分がすべてかぶってくれる受講生なんて、まずいません。
「私が勝手にやりました!先生は何も悪くありません!」
とは、なかなかなりません。
自分を守るために、普通に先生の名前を出します。
そのとき初めて、
「まさか私まで見られるとは思わなかった」
と言っても遅いんです。
そして行政処分となれば、誰にも知られず、静かに終わるとも限りません。
「必ず官報に個人名が載る」
と単純には言えません。
ただ、特定商取引法に基づく行政処分は、事業者名、処分内容、違反行為などが公式サイトで公表され、原則として一定期間掲載されます。個人情報保護法でも、委員会の命令に違反した場合には、その旨が公表されることがあります。
今は、官報を毎朝読む人より、名前をGoogle検索する人のほうが多い。
お客さんも見る。
同業者も見る。
家族も見る。
旦那さんに、
「私、在宅ワークで頑張る!」
「〇〇万円のスクールに入った!」
「絶対に結果を出すから!」
と意気込んでいたのに、しばらくして、
「ごめん。法律違反しちゃって、ビジネスできなくなっちゃった」
となる。
でも、お客さんにはそのまま言えないので、
「今後はオンラインを離れ、オフラインを中心に活動することにしました!」
と、なぜか前向きな方向転換のように発表する。
その“オフライン活動”の正体が、
転職活動。
いや、笑い話のようですが、ルールを「バレるか、バレないか」で考え続けたら、ない話ではありません。
新しいルールができるたびに、
「どう守ればいいか」
ではなく、
「どうやって潜り抜けるか」
を考える。
この書き方なら大丈夫。
ここまでならバレない。
注意されたら消せばいい。
証拠を残さなければいい。
その発想が、反対なんです。
新しいルールができる。
潜り抜ける方法を探す。
また被害者が増える。
そして、もっと厳しいルールが作られる。
ずっと、これの繰り返しです。
僕はFacebookを見ていても、同じようなことを感じます。
もともとは友人や家族とつながる場所だったのに、ビジネス投稿、イベント招待、勧誘、営業目的の友だち申請が増えていく。
社会規範の場所に、市場規範を持ち込みすぎた結果です。
「売る人」が増えすぎて、普通に使っていた人が居心地の悪さを感じて離れていく。
見込み客を集めるためにSNSへ来たはずなのに、自分たちで見込み客がいた場所を壊している。
これでも減らなければ、将来、
ビジネス利用者は全員本人確認。
商品を販売する人は事前申請。
個人アカウントからの営業DMは禁止。
特商法表記を登録していないアカウントは販売不可。
違反した人は、SNSでのビジネス利用停止。
そんなルールになったとしても、不思議ではありません。
もちろん、現時点でそうなると決まっているわけではありません。
可能性も低いでしょう。
けど、そのときに、
「個人事業主に厳しすぎる!」
「自由にビジネスをさせて!」
と言っても、
その自由を削ったのは、規制した側だけではありません。
「自分くらいなら」
「みんなやっているから」
「バレなければいい」
と、自由を雑に使い続けた事業者側にも原因があります。
ルールを守ることは、行政に怒られないためだけではありません。
これからもSNSでビジネスができる場所を残すためです。
攻略すべきなのは、法律の抜け道ではない。
お客さんが安心して情報を預けられる仕組みのほうです。
今回の2026年個人情報保護法改正については、WEBアプリ「エルラボ+」に解説動画を追加しています。
個人事業主には、具体的に何が関係するのか。
SNSやLINEでは、何に注意したほうがいいのか。
今使っている登録導線や顧客管理は、どこを見直したほうがいいのか。
法律の文章を読んでも分かりにくい部分を、SNSビジネスをしている人向けにかみ砕いて解説しました。
「どう潜り抜けるか」ではなく、
これからも安心して続けるために、何を整えておけばいいのか。
詳しくは、下の「エルラボ+」から解説動画をご覧ください。
とーる|猫好きの行動経済アナリスト



